「オムニチャネル小売と店舗の未来」和訳

知人が通うセミナーで使われているというオンライン小売業者のレポート PDF (2017年版)の、実際の店舗例について書かれている部分を現地視察前に翻訳してほしいという依頼があり、内容がなかなか面白かったので出版元の会社に FB メッセンジャーで公開する旨の断りを入れつつ記しておきます。

http://hkitago.tumblr.com/post/171513964811

P.25 崩壊前のオフライン小売業者
崩壊の危険があるビジネスの分野があるとしたら、それはオフラインの小売業者だろう。そして、その崩壊を後押ししようとしているのはオンライン販売だけで小売を始めて実店舗を構えようとする小売業者なのである。

いくつかのオンライン小売業者は、販売全体のおよそ10パーセントでオフラインで起きている90パーセントの試みを決定していた。彼らが長期に渡る成功を収めるかどうかは不明だが、一つ確かなのは業界を揺さぶるかもしれないようなやり方で従来型小売店体験を新たに想像しているという事だ。

「実店舗の空間はおよそ200年の間、変化がありません。」とフォレスター・リサーチ社のブレンダン・ヴィッチャー氏は述べる。「店の中を歩き、何かを棚から手に取り、レジに行き、支払いを済ませて店の外に出る。このサービスは私達の曽祖父母の世代から続くもので、現代のデジタル知識のある消費者には通用しません。」

オフライン小売業者の崩壊の始まりを目にしている最も有名なオンライン小売業者はアマゾンだ。皮肉なことに、従来の書店を殺した張本人は今やシアトル、サンディエゴ、シカゴ、ポートランド、そしてマサチューセッツ州の町、デダムとリンフィールドに書店をオープンした。

アマゾンはこの実店舗にオンラインでよく知られている機能を統合した。例えば、オンラインで星4.8以上のタイトルを集める「高評価」の陳列や、アマゾンを一躍有名にしたマーケティング技術である「この商品を買った人はこんな商品も買っています」を手本とした「こちらもいかが」という棚がある。

そしてアマゾンはこの書店が自社のキンドル端末やスマートスピーカーの販促を後押しすると考えている。

「消費者が私たちの端末を見て触って使いファンになる、実書店がその機会を作る良い場所だと私たちは考えています。」とアマゾンの最高財務責任者ブライアン・オルザブスキー氏は述べた。

またアマゾンは、アマゾンGOや現在は従業員のみが利用できるコンビニ、日用品配達サービスのアマゾン・フレッシュ、そしてフレッシュ会員が15分で実店舗で商品を受け取ることが可能なアマゾン・フレッシュ・ピックアップといったサービスを含む他の小売形態を試みている。

いくつかのアマゾンのオフライン小売は、そのデジタル価値を高めたプライムサービスを熱望しており、より大きなものになることは容易に想像ができる。

「アマゾンについて一つ覚えておきたいのは、常に消費者のことを念頭に置いているということです。」とヴィッチャー氏は述べる。「彼らは付加価値サービスを貫き、カスタマー・ロイヤルティへの鍵を見つけたのです。そして、その付加価値サービスモデルを小売モデルに適用することで、組織は彼らが実店舗をどのように考えていたのかについて再考することになったのです。」

しかしながら、アマゾンの実店舗支配は終わった話ではない。従業員管理、万引き、保険、接客、商業不動産など、オフライン小売固有の問題の取り扱いについて学ぶ必要があるだろう。

「多くの同業他社のように彼らも同じ多くの課題に取り組む必要があります。」とヴィッチャー氏は述べる。「そのことはさほど単純ではありませんが、彼らは異なった考えをしているはずです。そしてその考えが前進への大きなアイディアとなるでしょう」

P.27 ブルー・ナイル
オフライン店舗を目指すオンライン小売業者はアマゾンだけではない。同様に飛躍しようとしている小さなブランドがいくつかあり、そしてアマゾンのように彼らはデジタル体験を実店舗に拡大しようとしている。

ダイヤモンドジュエリーを扱うブルー・ナイルは1999年からオンライン販売を手掛け、2013年に全米でも有数の大型百貨店チェーンであるノードストロームの2つのブライダルショップでオフライン販売を始めた。

「私たちがノードストロームで始めた時は縦60センチ、横1.8メートルのショーケースから一年で100万ドルを優に超える金額を売上ました。ノードストロームでの二店舗目はそれ以上でした。」とブルー・ナイルのCEOハーヴィー・カンター氏は述べる。

それをきっかけにブルー・ナイルは “Webrooms(ウェブルーム)” と呼ばれる自社店舗をオープンした。最高級のショッピングモールの中の小さな販売場所では模造ダイヤのジュエリーを見ながら不特定の販売員と相談することが可能だ。

「ただ何かを売るだけではなく、実際の体験を作りたかったのです。」とカンター氏は言う。「ノードストロームでは単に婚約指輪を販売していましたが、Webrooms では体験を作っています。」

ブルー・ナイルはニューヨークに2店舗、ポートランド、シアトル、バージニア州のタイソンズ・コーナーに各1店舗、合計5店舗を展開している。

ブルー・ナイルのオフライン店舗は清潔で光沢感があり、デジタルの起源に沿っている。例えば従来ある会計のレジやカウンターがない。と言うのも実店舗には持って帰るための在庫を置いていないからだ。実店舗に訪れても自分のデジタル端末か、ブルー・ナイルに備えてあるノートパソコンでウェブブラウザを使って購入することになる。

「私はこれを三次元オンライン体験と表現します。」とカンター氏は言う。「と言うのも文字通り、自宅のソファでやるようなものだからです。」

このモデルによってブルー・ナイルは、いつものように BlueNile.com のオンラインショップサイトで得られる全てのデータに加え、いくつかの新しいデータを得ることができる。

「電話、タブレット、PCといったあらゆるデバイスを使った操作体験の豊富なデータを全て捉えています。」とカンター氏は言う。「顧客がどこに行くのか、どのくらいの頻度で来るのか、何を見ているか、ページ滞在時間はどのくらいか、コンバージョン率とか、加えて新規顧客のデータ、どのくらい遠くから来ているかとか、どのくらいの認知度なのか。」

またブルー・ナイルは地理的要因で購入パターンが異なることを見つけ、それに沿った取り揃えを各店舗で行っている。

「例えばニューヨークではバージニアやワシントン、オレゴンに比べて有名デザイナーの需要が大きくあります。」とカンター氏は言う。「ニューヨークやマンハッタンの人は、隠してあるデザイナーリングを購入する傾向が非常に強いです。」

ブルー・ナイルの店舗は、平均でグロス面積が46平方メートル、ネット面積が28平方メートルと伝統的なジュエリー店に比べてかなり小さい。(グロスは全体の、ネットは実際に使うことができる場所の面積)

「私たちの店舗は伝統的なジュエリー店の15パーセントほどの大きさだと思います。」とカンター氏は言う。「Webroom には通常2名とマネージャー1名の合計3人の従業員体制を取っています。伝統的なジュエリー店では6〜8名、あるいは10名かもしれません。」

カンター氏によると、各ブルー・ナイル店舗の従業員は一年平均で1.5億円を売上る。

「1店舗につき(1シフト)平均3名配置、総じて5〜6名の従業員として、年間で多くて7億円と言う計算になります。そこでグロス面積が46平方メートルから7億円と考えてみると、その生産性は驚くべきもので、伝統的なジュエリー店より果てしなく高いものです。」

P.28 モドクロス
最近実店舗を設立したもう一つのオンライン小売店は、ビンテージにヒントを得たアパレルのモドクロスだが、そこにもまた従来の店舗を連想する物理的な特徴を見ることができない。

「私たちは敢えてストアと呼びません」と、衣類メーカーのアーバンアウトフィッターズで最高戦略責任者を務めた後2015年1月にモドクロスへ参加したCEOマシュー・カネス氏は言う。「私たちはそれを”フィットショップ”と呼んでいます。単に外からの視点ではなく内部からのものです。」

数少ないオンラインだけの小売を展開していたモドクロスはこの一年にウォルマートに買収され、現在はテキサス州オースティンで一つのフィットショップを運営している。それ以前、2015年の夏から2016年末までにモドクロスはロス、サンフランシスコ、デンバー、ポートランド、ワシントン、ピッツバーグ、そしてオースティンの7箇所にポップアップストアがあった。

IRL、あるいは “In Real Life ツアー” と呼ばれていたポップアップストアのアイディアは、オンラインよりも多くのフィードバック得るために直接モドクロスのデザイナーやバイヤーが顧客と交流していた。噂によるとロスのポップアップストアは一区画分の行列ができていたそうだ。

「顧客がフィットショップで予約を取ると、彼女たちは平均で80〜90パーセントの時間を使います。」とカネス氏は言う。「そして、IRL ツアーやオースティンのフィットショップでの体験でオンラインのオーダーの倍の量になります。」

「私たちにとって、マルチチャンネルを利用する顧客の生涯価値はオンラインのみの場合に比べてずっと高くなります。しかしこれは現実の小さな事例で比較的短期間であるため、統計的に何かを指し示したり意味があるとは言えないと私は警告しています。」

「お店というものは、商品や靴などを顧客が試着できて彼女たちの自宅へ届けるという伝統的な部分とショールームのハイブリッドだと思います。そのコンセプトによってモドクロスは伝統的な小売販売と比べて0.09平方メートル当たりにより多くの製品を仕入れることができ、同僚は顧客と1対1で時を過ごすことができるのです。」とカネス氏は言う。

モドクロスの顧客は店内で自分のスマホやタブレットを使って支払いができるにも関わらず、購入は一般的にキオスク端末が利用される。

カネス氏によるとモドクロスが得る全てのデータは、小売店が将来の買い物客の興味を正確に捉えることができるように、パーソナライズ機能(プログラム・エンジン)に集約されていると言う。例えば、体型やサイズが似ている女性が既に好意的なレビューを付けているアイテムをアプリ内で表示するために、モドクロスは顧客の採寸データを利用している。

「ストアで必要なことは、各顧客に応じたパーソナライズです。」とカネス氏は言う。

モドクロスもまた、製品の好みには地理上の微妙な違いがあることを理解している。

「オースティンではオンラインで提供しているものに比べて、仕事用の服と同じくらいに私たちの独特の美学に大きな需要があると気が付きました。」とカネス氏は言う。「また、美学についてポップアップストアで学んだことは、ワシントンはより伝統的で、女性客が多く少しフォーマルでした。」

非アクティブなデータを通り越し、モドクロスは IRL ポップアップストアにおいて個人的な交流のみがもたらす突然の閃きをも体験している。カネス氏は、顧客が自分のサイズについて従業員に謝罪をしたというロスのポップアップストアで起きた出来事を詳しく話した。

「その女性客に付き添っていた私たちのチームの従業員女性は、あなたはそのままで美しく、そういうふうに感じてもらうことが私たちの仕事なのだから謝る必要はないと伝えました。」とカネス氏は言う。「するとその女性客は、ファッション会社で味わったことがないと泣き始めました。彼女はブランドと親しい関係を築けると思ったことがなかったのです。」

「それは私が “これこそがオフライン戦略を持つべき理由だ” と言った瞬間でした。私たちのミッションを発展させるという理由だけでなく、コミュニティの成長やリーチの拡大、そして良いことをして成功するためにもそのような瞬間を作っていく。」とカネス氏は言う。

もう一つのオフラインの閃きはサンフランシスコで起った。そこではモドクロスが言い方を止めてしまった、いわゆるプラスサイズの女性が、多くのファッション産業に無視されているかのように隅に追いやられてしまっていた。

「モドクロスの事業を大きくしたいという私のビジョンは、サンフランシスコでポップアップストアを展開した時に改めることになりました。ポップアップストアの洋服のサンプルをXXSから4Xまで全てのサイズを利用できるようにしました。」とカネス氏は言う。「女性、特に集団で訪れるお客さまは、みんなで買い物をするだけの取り揃えがあると思っていませんでした。」

「”プラスサイズはどこにあるの?” とか “私のサイズはある?” と多くの女性客が尋ねてきますが、”プラスサイズはありません” そして “全てのサイズの用意があります” と答えた時の彼女たちの表情を見せたかったです。」

しかしそれでもオンラインの小売店はもちろんデータが全てだ。そして各個人に基づいたオフラインのデータを得ることで、顧客が実店舗にいる時でもデジタル的に自分を確認できるようになる。そのために小売店は、サインインやアカウントを作ることが妥当だと感じる何かを買い物客に提供する必要がある。

「小売店が必死になっているのは交換価値です。」とフォレスター・リサーチ社のヴィッチャー氏は述べる。「顧客の自己認識のためにどれだけの価値を与えることができるのか?」

ブルー・ナイルは、顧客がウェブブラウザを使って自宅や Webrooms で自社のオンラインカタログを見ている時に、クッキー技術を使って彼らの買い物同行を学習している。全てのセールスは、顧客が持っている端末や Webrooms に設置されている iPad で個人向けサービスを使ってオンラインで完結する。もし顧客が Webrooms で購入しなくても、後でコンバージョンを追跡できるように個別の割引コードを発行している。

P. 31 ファブレティクス
行動的な女性用のアパレルであるファブレティクスは会員制を採用している。ファブレティクスの会員は、非会員と比較して30〜50%の割引額で商品を購入することが可能だ。

ファブレティクスの会員になると、毎月始めの5日以内に何かを購入するか翌月に持ち越すオプションを使うかという条件に同意することになる。

「顧客を引き付ける唯一の方法として、毎月始めの5日以内にウェブサイトへログインするか直接来店し、何かを購入するか持ち越しを選択してもらうようにしています。」とファブレティクスの上席副社長ダスティン・ネトラル氏は述べる。

テックスタイルファッショングループ社が保有するファブレティクスは、今や21の地域に店舗展開しており、年内もしくは2018年の始めまでに30へと拡大する計画だ。

ファブレティクスが適切なお勧めの商品を提供できるように、新規会員はまずスタイルとサイズのプロフィールを記入する。毎月1日に、会員はそれぞれのために選び抜かれたアイテムが掲載された電子メールを受け取る。その内容は、オンラインや実店舗での顧客個人の行動データに基づいて変わるようになっている。

オンラインの行動から収集する情報は実店舗の購入体験に利用しているし、その逆もまた然りである。

例えば、ある顧客がオンラインで何かの商品をカートに入れたけれども購入しなかったため、取引記録にも残らなかったとしよう。その顧客が実店舗に足を運びアカウントにログインすると、従業員は彼女のカート履歴を参照し同じアイテムの試着を促し購入の機会を伺うのだ。

ファブレティクスの全ての従業員は携帯端末を持ち、サイズが適切であるかどうかといった Fabletics.com にある個々のアイテムに対する顧客のレビューを参照することができる。

またオンライン販売のみの場合と比較して、実店舗のデータを使いより迅速に顧客の動向に対応が可能になった。

「毎月始めに新たに展開した商品が3日経ってもコンバージョンが鈍いと、それは値段やサイズの問題なのかもしれないと分かるのですが、店舗にある全てのデジタル的な情報を集めてここエル・セグンドにいるデザイン、マーチャンダイジング、そしてプランニングのチームにフィードバックしています。」とネトラル氏はカルフォルニア本社を引合いにして述べる。

フィッティングルームに至るまでに起きる全てのことを注意深く調べる。もし会員が購入しないと何故か尋ねる。結果としてファブレティクスはトレンドを掴み適切な対応ができるのだ。

「仮に私たちが顧客に ”このカプリパンツはどうでしょう?” と感じで尋ねたとすれば、 ”少し小さいわ” と返事があることでしょう。」とネトラル氏は続ける。「もし私たちがトレンドを十分に知っていないと、その商品をリサイズしタグを付け直すことでまとまった商品を出荷できなくなり、顧客を失望させ、結果として返品となって終わるでしょう。」

一つ確かなことは、以前オンラインだけだった小売業者は製品ではなく、データ駆動型の個別体験によって違いを付けているということだ。

「製品は重要ではありません。」とヴィッチャー氏は述べる。「競争の優位は体験にあります。それこそが実店舗体験を改善するべき理由なのです。」

情報源: Omnichannel Retail | Catchpoint & Internet Retailer

一時期 iPhone などに接続してクレジットカード決済が可能になる端末をコンビニで販売していた米国発のサービスがありましたが、店舗からポスレジを無くしてしまって直接オンラインショップの決済を利用してもらうという仕組みは在庫管理を一元化し、飲食店でも一次的な出店でも、いろんな決済に応用ができ衝撃がありました。このレポートは、途中自社ソフトウェアの広告をいくつか挟んでいますが、そこから得られた統計について書かれた全68ページのとても読み応えのあるものでした。既に2018年版が出ているようなので、興味がある方はダウンロード(要登録)して一読してみてください。

最後に、不慣れな会話の慣用句の訳として面白かったものを二つ紹介。

http://hkitago.tumblr.com/post/171609862006

http://hkitago.tumblr.com/post/171609874261

日頃の技術書や RSS でニュースを見ている時の大意を掴みながら英文を読み進める場合と比較して、日本語でそれぞれの文が意味を成すように翻訳する技術は異なるものがあり、まとまった文章を翻訳するという作業の必要性を再認識しました。

投稿者: hkitago

個人事業主でウェブと iOS, Android アプリの開発者で一児の父親。JavaScript, ActionScript, AppleScript, PHP, SQL, ObjC, Swift, Java の読書実行試験運用管理を生業とし、Bind, Postfix, Apache を MacOS で使い、エディタは Vi, mi, Kod, Smultron, TextWrangler を経て Coda, Xcode, Android Studio といった IDE と CotEditor を重用しています。