読了『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』

最近話題の「積読」ではないですが、Amazonの欲しいものリストに寝かせておいたものの中から電子書籍化されていない、あるいは中古で©驚安のものを選んで読むという事をたまにやるので、今回は表題にある作品を選んで購入しました。

Kindle にはハイライト機能があって後で見返すのがとても便利なのですが、印刷された本を読む時には気になる部分をコンピュータのテキスト(近年では iOS のメモ)に手打ちして残していくという事をやっていました。そこで、古いとは言え名著だと思ったので、こちらに印象に残った引用を残して置こうと思います。

ソフトウェアは思考のフォークリフトである。P.91

ゴールドマンとヘイグループが共同で行った調査結果によると、組織内で最も優れたリーダーとされる人たちには「おもしろい人物」が多いという(「愉快で楽しい人」という意味であって「変わった人」ではない)。「おもしろい」リーダーたちは、普通の管理職と比べて、三倍もよく笑うらしい(ユーモアというのは非常に右脳寄りの活動なのだ)。 P. 115

国が豊かになり、人々が快適な生活を送れるようになるかどうかは、学校で芸術家を育てていけるかどうかにかかっている。物があふれ、オートメーション化とホワイトカラーの仕事のアウトソーシングによって混乱している現代社会においては、職種を問わず、誰もが芸術的感覚を養う必要がある。みんながダリやドガになれるわけではない。だが、私たちは皆、デザイナーにならなければならないのだ。 P. 128

デザインは、古典的な全体思考能力だ。へスケットの言葉を借りれば、「実用性」と「優位性」の組み合わせである。 P. 129

熱帯雨林に暮らしていたら、さまざまな葉の見分け方を学ぶでしょう。それと同じで、私たちはいろいろな書体を見分けられる能力を身につけた訳です。 (バージニア・ポストレル)P. 138

ビジネスに携わる人がデザインをよく理解する必要などない。彼ら自身がデザイナーになる必要があるのだから。 (ロットマン・マネジメント・スクール学長、ロジャー・マーティン)P. 143

生活とデザインに関する指針

  • 1 専門的になるな。
  • 5 ものを作り出す前に、そのアイデアやコンセ6プトがオリジナルのものなのか、それには本当に価値があるのかどうかを自問してみること。
  • 6 自分が経験してきた仕事についてすべて理解し、その上で何か新しいものをデザインするときには、前のものは全部忘れてしまうこと。
  • 7 「やれたはずなんだけど」とは決して言わない。それは、やらなかったことだからだ。
  • 24 モノではなく、「経験すること」 にお金を使え。
  • 33 「普通」というのはいいことではない。
  • 38 世の中には三種類の人間がいる。文化の創造者、文化の消費者、文化など意に介さない人。最初の二種類の人間のどちらかになるようにする。
  • 40 一つのことにこだわらず、広く物事を考える。
  • 43 生活で最も重要なのは「経験」である。そして、アイデアの交換や他人との触れ合いこそ、本来の人間のありかただ。場所や対象物によって、経験の印象が強まったり、台無しになったりすることがある。
  • 50 今この場が、私たちにとってすべてである。

P. 159 http://karimrashid.com

日々の生活の中で、使用に耐え、かつ楽しくなるものを選ぶようにしよう。クラシックなデザインの衣類は、流行に左右されることがない。家具は長く使うほど趣を添えていくものだ。他人の注意を引くためではなく、自分が喜びを感じられるものを選ぶこと。家族や友人、そして自分の心以上に「もの」に重きを置くことは絶対にいけない。 P. 162 http://animatrix.com/

観念的に言えば、人間は論理を理解するようにできていない。人間は物語を理解するようにできているのだ。(認知科学者、ロジャー・C・シャンク) P. 169

技術面での行き詰まりが、技術者でない人によって解消されることはよくある。そのような場合には、IQよりも全体像をとらえる力のほうが重要だからである。思考を大きく飛躍させられる能力は、画期的アイデアの発案者に共通して見られる特徴だ。非常に広いバックグラウンドと総合的な知力を持ち、幅広く多様な経験を積んできた人に、このような能力の持ち主が多い (MIT ニコラス・ネグロポンテ)P. 215

クリエイティブで才能豊かな女性はそうでない女性よりも支配的でタフであり、クリエイティブな男性は、他の男性に比べて繊細で攻撃性が低い P. 215

精神面が中性的な人は、事実上対応のレパートリーが倍になるので、より豊かな視点で世間の人々と交流ができ、多様なチャンスを手に入れることができるのだ (チクセントミハイ)P. 216

自力で成功して億万長者になった人は、一般の人より四倍も失読症である比率が高いという。 P. 224

卓越したリーダーたちは、「『もし〜ならば〜だ』式の推論に頼ることが少なく」、調和力の特徴でもある直感的で文脈に依存した推論を重視するらしい。 (ダニエル・ゴールマン)P. 225

『詩人をマネージャーにしなさい』と言うんだ。詩人というのは独創的なシステム思考ができる人だからね。彼らは自分たちの住む世界を観察し、その意味を読み取る義務を感じている。それから、世界の動きを読者が理解できる言葉で表現する。意外なシステム思考者である詩人たちこそ、真のデジタル思考のできる人材なのだ。彼らの中から、明日の新たなビジネスリーダーが現れると、私は信じている。 (シドニー・ハーマン)P. 226

優れた交響曲

  • ベートーベン『交響曲第九番』
  • モーツァルト『交響曲第35番ハフナー』
  • マーラー『交響曲第4番ト長調』
  • チャイコフスキー『祝典序曲1812年』
  • ハイドン『交響曲第94番ト長調 驚愕』

P. 231

「共感」と「同情」は違う。同情とは他人を気の毒に思うことだ。だが、共感とは、他人と「ともに」かんじ、その人だったらどんな気持ちがするだろうかと感じ取ることである。 P. 242

リーダーシップとは共感するということだ。人々の人生にインスピレーションと力を与えるために、人と結びつきを持ち、心を通わせる力を持つことなのだ。(オプラ・ウィンフリー)P. 245

論理や哲学や理性的説明ばかり寄りかかっている人は、精神のもっとも優れた部分を餓死させることになるだろう。 (ウィリアム・バトラー・イェイツ)P. 251

幸せは条件を伴うが、喜びに条件はない。P. 299

精神的(または非物質的)な不公正は、現在、物質的な不公正と同じくらい、あるいはそれ以上に重大な問題である (ロバート・ウィリアム・フォーゲル)P. 315

物質的欲望から意味的欲望への移行は、何億人もの人々を巻き込み、歴史上類を見ないほどの大きなスケールで進行しており、最終的に私たちの時代で最も重要な文化的発展と見なされることだろう (グレッグ・イースターブルック)P. 316

幸福の要因となるものには、満足のいく仕事に従事すること、ネガティブな出来事や気分を避けること、結婚、豊かな社会的ネットワークを築くことなどがある、とセリグマンは言う。また、感謝の気持ち、許すこと、楽観主義なども同様に重要だ。(一方、大して重要でないと思われるのは、お金を得ること、高い教育を受けること、快適な気候の中で暮らすことだという結果が出ている)。P. 328

働く理由の第一は物質的利益にあったが、それも近いうちに、仕事の結果を楽しむことに取って代わられるだろうと、私は予測している (マーティン・E・P・セリグマン博士)P. 328

現在でも題名で検索をすると粗筋や感想文を多く目にすることができますが、大意を掴むのに分かりやすかったのが “A not only B” で示されるこの図でした。

http://hkitago.tumblr.com/post/178941985915

紹介されているリンクの八割はドメインが売りに出されていたりして閲覧ができなかったのが残念でしたが、当時のブログブームに乗ってなのか右脳左脳やEQ判定の話題について、妻でさえも勤務先から仕入れて熱心に話していたのをよく覚えています。

この本の前に「ファスト&スロー」を読んでいたので始めは少し不安になりましたが、脳科学ネタを引っ張ることなく時代背景から今後の展望へとうまく論を繋いでいてあっという間に読むことができました。

その脳科学ネタは最後の章で、このブログで過去に紹介したことのある仏教の話に繋がっていて、また時代の断片的なものを感じることができる内容でした。

ただ当時と違うのは自分に小学生になる子供がいるということで、彼の周りでは中学受験のための塾通いなんかが話題になっていたりしますが、例えば勉強だけをしてきた地方の学生が都心の賢い大学に入って個人の文化的差異に衝撃を受ける、というようなことを実際にも聞いたりする訳です。

プログラミングの授業が新たに小学校で始まったりする中で、このようなアンチパターンを避けるべく子供の進路についての指針として読むことができたというのは単なるビジネス書としてではなくてなかなか良かったような気がします。

アルゴリズム

次のような面白い記事があって、ちょっと専門性が強いかなと思って以前「昨年読んで良かった3冊」というのを書いたのですが、除外していた一冊を紹介します。

高度なITを駆使する「高頻度取引(High Frequency Trading:HFT)」業者、彼らの売買を処理する私設電子取引所(Proprietary Trading System:PTS)、これらのPTSを使って顧客(投資家)の注文をさばく大手金融機関=投資銀行などが一体となって、(当人たちの意図の如何に関係なく、結果的に)大小の投資家から利益をかすめ取っている、現在の株式市場全体がそういう不公平な状態にある、というのがLewisの主張。

引用元: 『マネーボール』著者マイケル・ルイスの最新刊をめぐってウォール街が大騒ぎ – ZDNet Japan.

紹介する本には引用するようなコンピュータによる格付け解析合戦というのは色んな世界で起こっていることでその具体例が多々登場しますが、身近なところでも例えばアプリそのものはアルゴリズムの塊のようなものだし、料理においては手順とか手際の良さ=効率が良く生産性が高いというのも同じ事なのだと思います。

こんな話を妻にしていると「アルゴリズム体操ってそんな意味なんだー」と感想していて面白かったです。

P.S. 新刊の宣伝には丁度いいですね。また映画化するかな?

参考:

昨年読んで良かった3冊

ネット文献が充実してきて最近はあまり買うことがなくなった技術書以外で毎月を一冊を目標に読むようにしているのですが、ビル・ゲイツが選ぶ「今年読んで良かった7冊」に触発されて、一線を退いているとはいえこの人は一体年間に何冊くらい読んでいるのだろうかと疑問を抱きつつも3冊ほど紹介します。

番外編として技術書としてはこの本が良くまとまっていて更に新たな発見もあり良かったと思います。

解説を入れなかったのは「Amazonレビューを見て頂ければ」というフランクリンの言い訳を基に面倒だったからです。また最後に、最近は世代の異なる子供の保育園友達家族達と会うことが増えてこんな風なことを再確認しています。

先日の角川書店祭りで既に5冊購入してしまった折、今年はどんな影響のある本に出会えるのか乞うご期待。

仏教入門

はてなブックマークで「「人は何を考えているときが一番幸せか?」 脳波スキャンで解明される : earth in us.」という記事の人気があったので見てみると、Googleの研究者チャディー・メン・タンという人が紹介されていた。どこかで見たことがあるなあ、と思っていたら最後にリンクされていた TED の動画を見てビックリ、2007年に開催されていた Google Teck Talk にフランス人僧侶のマチウ・リカール氏を招いていた人物だった。

僕が初めて読んだマチウ・リカール氏の本はこのブログの中でもたまに引用するんだけど、「僧侶と哲学者―チベット仏教をめぐる対話」で、サッカーのW杯へ二度目の観戦に行くかどうかを決めかねていて矢先、ネットニュースでフランス人とやり取りをしている中で教えてもらったものだった。(日本が初めてW杯に出場しフランスにやってくるということもあって仏教を含めた日本ブームが起きていたらしい)子供が産まれる直前にも不安を掻き消すように再読していたこともあり、懐かしさも込めて仏教理解に役に立った本を数冊紹介することにする。因にここで言う「仏教」とは、劣化複製され部分的に派生した日本にある多くのモノと違い、言い出しっぺ本人が何を考えていたのかを理解する原典、いわゆる「原始仏教」について話しています。(プログラマであれば「学ぶ時には『原典』に当たる」という格言は有名ですね。)

  • ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)

    高校時代に読んだというアマゾンレビューもあるほどの基本中の基本な本で「宮崎 哲弥氏と呉 智英氏との仏教対談 – ニルヴァーナへの道」でも言われているようにまずこれを読むと良いと思います。彼の説法は喩えの巧さは然ることながら、訳注にも書かれているんだけどサンスクリット語で聞くと歌のように聞き心地が良いと言うから興味が尽きないところ。

  • シッダールタ (新潮文庫)

    バックパックトラベラーの友人から貸してもらって読んだ本。これは、パスツール研究所で学び父親が西洋哲学者であるマチウ・リカール氏が仏教僧侶になったという事実にも言えることなんだけど、英語とか第二母語を話すようになって日本語が正しく使えるようになるのに似ていて、西洋人の仏教理解について学ぶことが東洋の仏教理解に大いに役立つと思う。「両端を知り尽くして中道を行け」という仏教哲学そのものを具現化する一冊。

    修行を放棄して俗世にやって来た本人が、事業をしてもサイコロを転がしても上手く行くというくだりがバックギャモン愛好家としてはお気に入り。

    小説ではないんだけど同種のものとしては、zen habits というサイトの管理人が書いた「Focus」も少し道教が混じっていますが気付くことが多くて面白かったです。

  • 掌の中の無限―チベット仏教と現代科学が出会う時

    先に紹介したマチウ・リカール氏の対話本の続編なんだけど、「もし万能/全能の神が宇宙を作ったというのであれば、出来損ないの宇宙が見つからない限り、彼に宇宙を作らない自由が無いので万能/全能ではない」という趣旨の、一神教や神の万能性に対する否定論が最も印象深かった。これを読んでからは、個人的にも代理店の担当者から「hkitagoさんの作ったものは完璧です!」とか持ち上げておだてられることがあるのだけど、「ああ、そっちの人なのか」と冷めた目で見てしまったりして。日本の文化に関して言えば、元々の多神教文化もあることに加えて、これは先の宮崎さんの番組でも言われている「他力本願」だとか「無下な感謝」を広めてしまった親鸞さんの悪影響という面もあるのかと思うのだけど、モノを作って公開するというプロセスを経験したことがある人なら理解が深いと思う。(作るものを「子供」に置き換えないように!)

これだけ読むと日本人が書いたビジネス書だとか「〜する何ヶ条」みたいなハウツー本の多くは仏教哲学の二番煎じか「てにをは」を変えただけに見えて味気なさを通り越して滑稽に見えてくるので、そちらを楽しみたい方は読まない方が良いと思うので予め。

最後に、スティーブ・ジョブズ氏も今年の講演で言っていたように、ハードウェアに対するソフトウェアは人間の精神に相応することもあって、この記事が多くのソフトウェア技術者やそれを目指す人へ参考になればとても幸いです。

P.S.
紹介したあらゆる映像の中で「思いやり」とか、あるいは「慈悲」と訳される英単語「Compassion」に対する言葉が「Passion」であることはとても面白いと思ったことも留めておきます。